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地域のブレイクタイムに穏やかな活力を。性格真逆の兄弟コンビの“絶景”カフェ

Taibow! COFFEE & GELATO SOFT
ばしょ
巻エリア

Information

名称 Taibow! COFFEE & GELATO SOFT
アクセス 新潟市西蒲区松山56-4
電話番号 0256-77-8619
営業時間 10:00〜17:00
定休日 月曜・第一、第三火曜
URL https://www.facebook.com/TaibowCoffeeAndGelatoSoft/

地元で自分たちが行きたいと思う店を作ろう

約80種類もの鳥が飛来し、四季折々の草花が美しい上堰潟公園の東側に、地元出身の兄弟が営み、老若男女幅広いお客さんが足を運ぶカフェがある。おしゃれなカフェに来た時のちょっと身構えてしまう緊張感はなく、自然とお客さんとスタッフとの他愛もないおしゃべりがはじまる、そんな穏やかな空気に包まれているカフェの名は、「Taibow! COFFEE & GELATO SOFT(以下Taibow!)」。

創業者で兄弟の堀内広紀さん(写真左)と堀内育郎さん(写真右)

兄で代表の堀内広紀さんは、人前に出て接客するのが好きなタイプ、弟の堀内育郎さんは裏方が好き。そんな好対照な二人が上堰潟のほとりにTaibow!をオープンさせたのは、2016年の年末のことだった。

周囲の景観と馴染むように設計された「Taibow! COFFEE & GELATO SOFT」

高校を卒業後、北海道に進学した二人。そこで豊かな自然に囲まれ、暮らしの近くにカフェがある文化に出会い、感動を覚える。「地元に自分たちが行く店がないのはちょっとつまらない」という思いと、北海道での感動を新潟にも届けたい思いが重なり、カフェを立ち上げることを二人は決意した。

広紀さんは北海道でコーヒーの腕を磨き、育郎さんは「コーヒーに合うものを」とソフトクリームとジェラートの技術を、日本とヨーロッパで習得した。

満を持して選んだ場所は、祖父が所有していた現在の土地。大通りに面しているわけでも、周囲に商業施設があるわけでもなく、「買い物のついでに立ち寄る」という導線上にもないため、当初周囲からは相当な反対を受けた。

カウンター席は、時間とともに移ろうにしかんの景色を堪能できる特等席

「ここには目の前に角田山、その奥には弥彦山が広がっていて、すぐそばには子どもの頃から遊んでいた上堰潟がある。1日の中で朝・昼・夕の景色の色の移り変わりが美しい雄大な自然が感じられるロケーションは、僕らが好きな北海道の環境にも似ているところがあるんです。きっとここにカフェがあったら喜んでくれる人がいるはず。ここでやったら面白いかも…と思いました」と広紀さんは回想する。

天災で屋根が飛び営業ができなくなった2年目

Taibow!は周囲の予想をいい意味で裏切り、スタートから多くの来店客に恵まれ、「1年目は日々の営業でいっぱいいっぱいだった」と振り返るほどの賑わいを見せた。実際、忙しすぎて広紀さんは2回倒れてしまったこともあったそう。

そして迎えた、2年目の2018年。少しずつ余裕も生まれてきた矢先に事件が起こる。2018年3月、新潟市は電柱も傾くほどの強風に襲われ、店舗の屋根が吹き飛ぶという衝撃的な事態に見舞われた。あまりの出来事にその時は事態の深刻さもわからず、二人はただただ呆然とするしかなかった。そんなとき、彼らを支えたのが「人」だった。

「メインバンクである地元の信用組合の担当者は『いつでも融資の準備はできています』とすぐに声を上げてくれました。そして兄の高校時代の同級生が、クラウドファンディングを活用して支援金を集めてくれたんです。他にも色々な人からご支援をいただきました」(育郎さん)

「最近、子どもの頃みたいに山とか自然の中で遊ぶのが好きで、子ども返りしているんじゃないかって思う時があるんです」(育郎さん)

修繕のための約1ヶ月館の休業を経て、なんとか桜が咲く繁忙期直前に営業を再開。2年目はこの再建のために怒涛の日々を過ごすことになる。

長い付き合いを前提にした温かい交流

そして3年目を迎えた現在、事故が嘘だったかのようにカフェは穏やかに営業している。ただでさえ3年で7割が潰れるとも言われる飲食業界において、集客のリスクが懸念されても、大変なトラブルに見舞われても、にしかんの地でカフェを続けるふたりを温かく見守り、支えてくれているのもまた人だという。

例えば、弥彦山・角田山が大きなガラス窓いっぱいに広がるように見える設計を提案してくれたのは、にしかんの設計士。最初にこの土地に案内した時、「あー、景色がご馳走らろうね」とにしかんの西川エリアの方言・西川弁でそう漏らしたそう。

「完成後もよく来店してくれて、人生や仕事に対するヒントをちょこちょこっと話してくれたりもするのがありがたいんです。最初から長い付き合いを前提にしてくれるのは、にしかんの本当にいいところだと思います」(育郎さん)

自然環境を含めたこの地域の良さを共有できる人たちと一緒にTaibow!は営みを深める

そして屋根が飛んだ際に頼もしいバックアップ体制を敷いてくれた地元の信用組合の人たちも、ふたりをいつも応援してくれている。「内緒ですが、理事長は土日に来てくれたり、多い時は1日に2回来てくれることもあるんです」と二人は笑い合う。

「ケンカはよくしますね(笑)」と広紀さん

「意外とにしかんっていいところだな」と再認識

経験を積み、4年目、そしてさらにその先へ向けて、Taibow!はゆっくりと変化の時期を迎えている。実は広紀さんは中学生の頃に脳出血で倒れた経験があり、その後遺症から例えば消費税の計算が苦手だ。3年間で分かってきたお互いの得手不得手の調整や働き方の最適化を始めている。そして育郎さんは、今後実家の農業に積極的に関わる計画も立てている。

オープンから3年経っての率直な気づきは「意外とにしかんっていいところだということ」と声をそろえる二人。

「にしかんの景色、特に晴れた日の朝に山がくっきり見えたり、夕日が落ちる瞬間とかすごく綺麗な様子がすごくいいなということは、ここにお店を作ってから再認識しました。農業したり山に登ったり、自然との関わりを日常にできるのはにしかんのいいところですね。強いて言うなら…もっと風が弱かったらいいですね(笑)」(育郎さん)

ソフトクリームやジェラートの他に、焼き菓子も充実している

「兄弟×にしかん」が経営スタイルの新モデルに!?

「最近の楽しみじゃないんですけど…」と話すと一言、カウンターに向かって育郎さんが「裕也!」と声をかけると一人の男性が現れた。

少し照れたように笑いながら登場したスタッフの大瀧裕也さんは、Taibow!がオープンした際に、テレビ番組のディレクターとして取材に来たことがある元テレビマン。コーヒーは全然好きではなかった裕也さんは、その時の取材でコーヒーのおいしさに目覚め、2週間に一回は来店するようになる。

広紀さんは、スペシャリティコーヒー協会主催のラテアート大会(北海道)で2回の優勝経験を持つ

 

看板メニューの「丸見ブレンド」は480円(税込)

実は裕也さんには、同じにしかんで美容室「tocotoco」を営んでいる兄がいる。2020年2月にはカフェを併設した2号店のオープンを同じにしかんエリアで控えており、その店で裕也さんはカフェ担当として勤務するため、現在Taibow!で修行を積んでいるわけだ。

「広紀さんが作ってくださったラテアートに感動して、来るたびに飲むコーヒーが美味しくて…おふたりが兄弟で頑張っている姿に憧れもあり、兄から一緒にやろうと言われてキャリアチェンジを決めました。ここは僕にとってパワースポットなんです」(裕也さん)

週末限定のソフトクリームは1ヶ月ごとにフレーバーが変わる

「にしかんはやりたいことが自由にのびのびとできる地域だったらいいと思うし、それが叶う土地だと思います。3年経って、いい意味で肩の力が抜けてきたし、これからはもっと自分たち、そして家族、仲間と協力の輪を強めていきたいんです」。そう声を揃える二人に力みはない。にしかんに生きることに豊かさを感じ、その思いを共有する人たちと穏やかにその豊かさを育てていっている。そしてその姿に共感する人たちが集う…そんな風に温かなコミュニティが広がっていく未来は、もう、すぐそこに。

取材・文/
丸山 智子
撮影/
内藤雅子(SUNDAY photo studio)