【にいがた にしかん 食の文化部 】レポ#2『きりあえ』
新潟県にしかんエリア(旧 西蒲原郡)は、日本海と越後平野、弥彦・多宝・角田山に囲まれた豊かな自然風土により形成されている地域です。滋味に富んだ野山の食材、寒風厳しい冬の知恵から生まれた保存食、そしてにしかんに水の恩恵をもたらした鎧潟や堤の存在。この地の風土を生かした食文化が暮らす人々の手により脈々と受け継がれてきました。
「にいがた にしかん 食の文化部」は、にしかんエリアの食文化を共有し繋いでいくことを目的とする活動です 。私たちは、この地に暮らす「食の担い手」から四季折々の郷土食、ハレ/ケの日の料理、農作業の合間に食べた料理、お茶請け・・・などなど、にしかんのおいしい食文化を教えてもらい皆さんとシェアしていきます。
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先日、西蒲区岩室エリアの郷土料理である『きりあえ』の作り方をけんさ焼きイベントでもお世話になった、岩室で農家をされている阿部マサ子さんとご友人の佐藤ヨシコさんに教わって来ました。
教えていただいた佐藤ヨシコさん(左)と阿部マサ子さん(右)
私自身、『きりあえ』という食べ物の名前を聞いたことはありましたが、作ったことはなく、食べたことがあったかどうか、記憶が曖昧でした。
一緒に作らせていただく中で、自分の子供の頃の記憶が甦り、あぁ母の実家でおじさんが作ってたあれか、と。懐かしい気持ちにもなれたとてもいい時間となりました。
きりあえは、主に岩室エリアで作られ食べられて来た、ご飯のお供。
大根のみそ漬けを刻んで絞ったものに、黒すりごま、刻んだゆずの皮、砂糖を加えた和え物です。
昔「白米は贅沢だ」といわれていた時代にこのきりあえを作って食べる様になったという。家々の仏事の際に、白ご飯の上に色の黒いきりあえを乗せて食べ、白飯を隠していたというお話も。白米を隠さないといけないという時代のことを考えながらも、なかなかいいアイデアだなと思ったのでした。
昭和50年代に岩室エリアの婦人部の皆さんで、地域の郷土料理を復活させよう!と、きりあえを作り始めたことから、このエリアで定着してきたそうです。
阿部さんは、いつもは自分で漬けた大根の味噌漬けを使って作るそうですが、今年は味噌漬けの評判がよく、あっという間に無くなってしまったそうで、今回は、一本ものの大根の味噌漬けを買ってご用意してくださいました。
ちなみに阿部さんは、3、4年寝かせたべっこう大根の味噌漬けを使うそうで、色味がもっと濃いそうです。
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■ きりあえ ★★☆☆☆
・大根の味噌漬け 5本
・ゆず 2個
・黒胡麻 230g
・砂糖 200g
1.大根の味噌漬けを刻み、搾る
まずは、大根の味噌漬け5本(1本400g)ほどを薄くスライスし、さらに細長い千切りにし、それを微塵切りに。とにかくきざみまくったあとは、マサコさんお手製のサラシの袋に移し替え、絞ります。余計な水分を絞ることで、日持ちが良くなり、さらにパラパラとしてふりかけやすくなるそうです。
余分な水分を絞っていきます
2.ゆずの皮を剥き刻む
大根を刻む作業と並行して、ゆず2個分の皮を剥き、こちらも細切りにし微塵切りにしておきます。
3.黒胡麻を煎って、摺り潰す
次に黒胡麻を煎ります。約250gほどの黒胡麻をフライパンにいれ、火にかけ煎っていきます。2,3粒パンパンと弾けたら火を止め、すり鉢に移して摺ります。粒感がなくなるまで摺ります。
今回は、マサコさんのご自宅にある薬研(やげん)を使って摺っていました。
この薬研という道具は、昔は漢方などを作る際に、薬の素となる植物の葉や木の実などを入れて砕いたり摺ったりするために使われていたものだそう。マサコさんの薬研はご近所さんに作っていただいたものだそうです。
実物を初めて拝見し、摺らせていただきましたが、すり鉢のように目に材料が入り込むことがなく、作業後の手入れも簡単そうで、便利だなと、郷土料理を作る過程に必要な道具からも昔の人の知恵を知ることができました。
4.混ぜ合わせる
それぞれの材料を大きなボウルに移し、混ぜ合わせます。
5.砂糖を加える。
混ざったら、砂糖200gを加えてさらに混ぜ合わせます。砂糖の量は大根の塩味具合によって、お好みで加減するそうです。
6.完成
大根の味噌漬けをしっかりと絞ったので、混ぜ合わせたあとは、パラパラとしてご飯にふりかけやすく、胡麻とゆずの香りもしっかり感じられ、とても美味しいご飯のお供になりました。
今回は、しっかりと分量を伺いましたが、基本的にその時々で違うそうです。
「分量なんて感覚らて」とおっしゃる様子がとても頼もしく、この土地で郷土料理を作り続けてきたからこそなんだな、と感じました。
そして、季節を感じて、その時あるもので作るのが、郷土料理なのかなとも思いました。冬に穫れた大根を各家庭で仕込んだ味噌で漬け、それを使ってご飯がさらに美味しくなるものを作る。
季節を感じながら、季節のものを使って長く楽しむことができる『きりあえ』は、今の時代に家庭でも作りやすい便利な郷土料理だと思いました。