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この土地に嘘のない料理を出す。手作り無添加を貫くカフェオーナーを訪ねた。

燦燦カフェ
ばしょ
角田浜エリア

Information

名称 燦燦カフェ
アクセス 新潟市西蒲区角田浜157-4
電話番号 0256-70-2233
営業時間 10:00~サンセット
定休日 毎週木曜日
URL http://sansan-cafe.com
メール info@sansan-cafe.com

有言実行のオーナーが作った、仕事と暮らしの理想の場所

夏は多くの海水浴客でにぎわう角田浜。しかし周辺の飲食店といえば、夏季限定の海の家(浜茶屋)ぐらいだった。そんな角田浜海水浴場に面した国道402号沿いに、2017年にオープンした「燦燦カフェ」。日本海と角田山をのぞむロケーションで、一つ一つ丁寧に作られた料理やスイーツをゆっくりといただける、憩いと味わいのスポットだ。 その燦燦カフェからは、岬に立つ「角田岬灯台」が見える。今回は、合わせて巡りたい2つのスポットを歩いた。

燦燦カフェオーナーの髙橋英一さんはここに来る前、新潟市の繁華街・古町地区で25年ほど炭火焼きの店を経営していた。飲食業を始めた20歳の頃から「45歳くらいまでに古町の店はきっぱり切り上げて、自然の中でやろう」と決めていたという。店名はカフェだが、食材選びや下ごしらえ、調理に妥協はなく、今も「和食屋」のつもりでやっていると髙橋さんは言う。

髙橋英一さん。書家や空間プロデューサーなど多彩な肩書きを持つ

自分や家族にとって心地いい「仕事と暮らしの場」を探して、新潟県北部の村上市や山間の阿賀野市など、あちこち回った髙橋さん。そして海にも山にも近く、近隣の農家から多彩な食材も手に入りやすい西蒲地区を「その場所」と決めたのだった。

山の裾野にひっそりと建つ燦燦カフェ兼、髙橋邸。土地を買い、山を切り開くところから始めたという

食材は、毎日朝夕と市場に仕入れに行くほか、新鮮な野菜を求めて農家を直接たずね歩く。10年以上付き合いのある農家もいれば、燦燦カフェを始めてから知り合った農家もあり、その数は40軒に上るという。

野菜を仕入れる農家の基準を聞いてみると「やる気がある人」と即答。味や品質もさることながら、新しいことに挑戦する意欲のある農家とのつながりを大切にしているそうだ。

お店に入ると、正面のいちばん目立つところに置かれていた

食材を最高の状態に仕上げるため、調味料もすべて無添加を貫く髙橋さん。そのこだわりについて聞くと「この景色で添加物とか嫌じゃないですか。裏切りですよね」。そこには理由などなく、髙橋さんにとって疑問を持つまでもない信念、本能のようなものなのかもしれない。

シンプルにしてメリハリのあるカレー

実は、店に入った瞬間から、カレーの香りに誘惑されていた。看板メニューの一つという「四つ葉ポークのスパイスカレーライス」を早速オーダーした。

てんこ盛りのサラダにびっくり

ターメリック、コリアンダー、マスタードシードなどの基本のスパイスに加え、爽やかさを出すカルダモンが多めに入っているという特製カレー。タマネギ、ニンジン、ニンニクなどの野菜も溶け込んでいる。
ごろんと入ったお肉は、村上市岩船産のブランド豚「四つ葉ポーク」。その旨味と食感に惹かれ、もう20年以上使い続けているという。

四つ葉ポークのスパイスカレーライス(税込1,408円)。2種のアチャール、地元野菜のサラダ、梅酢で漬けた大根のピクルス、バターナッツかぼちゃのスープ付き。野菜は季節により異なる

漂ってくる香りだけで、もうおいしい。口に入れるといろんな味と香りが広がり、何というか今までに食べたことのない味だ。しかし辛すぎたりせず、むしろ優しい口当たりで、後味もすっきりとしているのだ。
聞けば、このカレーはグルテン&ラクトフリー。一般的にカレーのとろみ付けに使われる小麦粉や、コクを出す生クリームなどの乳製品を一切使っていない。代わりに、濃度を出すためにすりおろしたジャガイモを加え、さらに「ガッツリ入っている」というトマトが爽やかなうま味を後押ししてくれる。
小麦粉や乳製品を使わないのは、ヘルシーにするためというより「うちでは必要がないから」と髙橋さん。必要なものだけシンプルに料理する。そうすることで食材の個性が引き立ち、メリハリのある一皿に仕上がっていると感じた。

カウンターにはスパイスがずらり。カレーには18種類くらい使っているそう

「アチャール」と呼ばれるインド料理の付け合わせは、その日の野菜に合いそうなスパイスを使って調理する、言うなれば髙橋さんの即興スパイス料理だ。マスタードシードやクミンで冬瓜を炒め煮にしたアチャールを口にした常連の女性客は「また新しい味に出会えたー」と感激していた。

「何を頼んでも本当においしいんですよ!」と話してくれた常連のお客さん。オーナーとの会話も弾んでいた

妻の路子さんは福岡出身。「海も山も近い田舎に育ったので、ここに越してきた時、帰ってきたような懐かしい感じがした」とのこと。自宅も兼ねている燦燦カフェだが、路子さんは朝の風景が一番好きだという。「朝日が昇りきると灯台が真っ白になるんです。灯台の白、山の緑、空の青がくっきりと浮かび上がって、時が止まったような感覚になる。そんな1日の始まりが大好きです」。

妻の路子さん。「書道の先生」という顔も持つ

恋が始まる? 深まる? 白灯台

燦燦カフェのシンボルマークにも、角田山と夕日、灯台と海があしらわれている。路子さんの言葉に興味を惹かれ、朝ではないけれど、白い灯台を目指してみた。

髙橋さん自らデザインしたシンボルマーク

角田山の裾野、岬の先端に立つ「角田岬灯台」は、1959年に初めてその灯りをともした。角田岬から佐渡島までの距離は約33km。灯台の光は約35km先まで届き、越佐海峡を航行するすべての船舶の安全を支えている。

灯台へ行くには画面右手の階段を下りるか、左手の洞窟を通るルートがある

燦燦カフェから車で2分ほどの角田浜海水浴場の駐車場に車を置き、上を目指す。いったん浜辺に下りてから階段を上るルートもあるが、今回は駐車場のそばの洞窟を通ることにした。

洞窟は、新潟市の文化財にも指定されている名勝

「判官舟かくし」と呼ばれるこの洞窟。平安時代末期、源義経が兄の頼朝に追われて奥州平泉(現在の岩手県)に落ち延びる際、舟とともに身を隠した伝説がある。洞窟の先に打ち付ける波しぶきが見え、ワクワクとドキドキが交錯する。

この日は風が強く、波が足元まで打ち付けていた

洞窟を抜けると、ごつごつとした岩肌に沿うように道が続いている。人一人が歩けるくらいの狭い道幅だ。そこを過ぎると灯台へと続く急斜面の階段がある。上り坂は楽ではないが、途中の眺めはすばらしい。広がる海と空と佐渡島。きっと季節によって海の色も違うのだろう。

灯台まであと少し!

軽く息を弾ませながら、灯台の足元に到着した。展望台でしばし、景色と吹き抜ける風を堪能する。

展望台からさらに上り、上から灯台を見ることもできる

駐車場からここまで5〜6分で来ることができた。道は比較的整備されているので、普通のスニーカーで十分だ。角田山は登山愛好家にも人気の山だが、「登山はちょっと…」という人も、灯台までなら散策気分で気軽に楽しむことができる。

何を隠そう、角田岬灯台は、一般社団法人日本ロマンチスト協会などのプロジェクトである「恋する灯台」に認定されている。スリリングな道のりを経て出会える絶景は、なるほど、恋人たちの気持ちを盛り上げてくれそうだ。

燦燦カフェの入り口付近で見つけた認定プレート

燦燦カフェのフードは、スパイスカレーの他に「村上牛のローストビーフ定食」や「地魚の漬け丼定食」なども人気だ。使う食材はもちろん、新潟県内外のおいしいものを知り尽くした髙橋さんが厳選している。
おいしいごはんと絶景。旅やドライブに欠かせない王道スポット2つが目と鼻の先にあり、気軽に楽しめるのがいい。「ちょっと半日出かけようか」という時にぴったりのコースだ。

取材・文/
小池杏子
撮影/
日下部優哉