地元食材の魅力を心ゆくまで。にしかんの文化を味わう懐石料理
- ばしょ
- 岩室エリア
Information
名称 | 懐石 秀石菴 |
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アクセス | 新潟市西蒲区岩室温泉617 |
電話番号 | 0256-82-2009 |
地元岩室で名店の味を
東京の懐石料理の名店「和幸」で共に10年の修行を積んだ、兄・小林信太郎さん(上の写真左)、弟・阿部竜太さん(写真右)の兄弟。生まれ故郷である岩室に「秀石菴」をオープンしたのは、1998年のことだ。 「父の代はここで鮮魚仕出し屋をしていました。修行時代、遠州流茶道家元の懐石料理を担当したことから茶懐石料理を学ばせていただいたのですが、『地元の新潟に戻って、地方の食文化を支えなさい』という教えを修行先からいただき、地元で店を開きました」(信太郎さん)
「店を始めた頃は、『こんな田舎の人も集まらないような場所でなぜ商売をやるんだ』と言われたし、自分でも内心そう思っていました。新潟の方には懐石料理はあまり馴染みがなく、特にお茶事の懐石はなかなか浸透しませんでしたね」(信太郎さん)
転機となったのは、開店から20年がたった2018年。この年、日本経済新聞の一面を秀石菴が飾った。ガストロノミーやフーディーズと呼ばれる美食に注目が集まる昨今、地元・新潟の食材を使った茶懐石の名店として取り上げられたのだ。懐石料理という文化が新潟の人々から縁遠かっただけで、秀石菴の実力はすぐに知れ渡った。メディアからの取材が増え、一気に知名度を獲得することとなった。
お茶を楽しむための料理
茶懐石の料理人には、料理の腕はもちろんのこと、茶事の作法や流派によっての違いといった知識が必要となる。
お茶の前にいただく茶懐石料理は一汁三菜が基本。「向付」「煮物椀」「焼き物」という順序になるが、主役はあくまでもその後のお茶である。空腹では、お茶を美味しくいただくことはできず、濃い抹茶を空腹のまま飲めば胃を痛めてしまうこともある。また、お茶席では着物を着て参加するため、汁が飛んで着物が汚れてしまうようなもの、油物や揚げ物などは出さないようにする。お茶の流派によって箸の形も、料理の出し方も変わる。
たくさんの決まりごとや客人への配慮がなされた茶懐石はどこまでも控えめだが、多くの知識と経験が凝縮された料理なのだ。
地域の食材から生み出される料理
開業当初は新潟産の食材にこだわらず、県外から一流のものを取り寄せることも多かった。地元産を選ぶようになったのは、6〜7年前から。地元の農家から旬の野菜を仕入れ、近くの山に山菜を採りに行く。ドジョウや川魚のモロコは川漁師に頼んで獲ってもらう。
取材時は、西蒲の伝統食材「りゅうのひげ」の仕込みをしていた。鮮やかな黄色をした食用菊で、花びらの一本一本は繊細だが、シャキシャキとした歯ごたえが特徴。向付のツマや、かぶら蒸しのあんの中に入れれば一気に料理が華やかになる。
弥彦で採れる銀杏「久寿(くじゅ)」や、西区の猟師が狩った本鴨、冬が旬のモクズガニ。地元の食材を使うことで地域のストーリーが加わり、料理がより一層深みを増す。
食でつながる連携
「お客さまが求めているものにいち早く気づき、対応していきたいです。公共交通機関のアクセスがいいわけではない岩室ですが、車で来られた県内外のお客さまのために駐車場も用意しています。うちでお食事をして、海や山、温泉もある地域全体をゆっくり見ていって欲しいです」(信太郎さん)
「にしかんに行ってみようというきっかけに、秀石菴がなれば嬉しい。そのために自分たちにできることは、精一杯いい料理を提供すること。今後いろいろなジャンルの料理店ができればさらに食の選択肢が増え、にしかんを訪れたいという人も増えるでしょうね」(竜太さん)
秀石菴から歩いて5分ほどの岩室温泉宿「旅館ゆもとや」と連携した「泊食分離プラン」も人気だ。宿でとる食事もいいが、せっかく岩室に来たなら地域の名店に行ってみたいと、県外客・海外客からの声が特に多い。このような連携で、さらに地域が賑やかになるだろう。
現在の秀石菴は、修業先で言われた『地方の食文化を支えなさい』という言葉を体現している。一品一品に地域の魅力が詰まった懐石料理は、訪れる者にとって最上のおもてなしと言えるだろう。
- 取材・文/
- 斎藤 恵(photo creation pupa)
- 撮影/
- 片桐悠太